ユーミスの丘

ドラ猫横丁0番地に住む猫たちの愉快な物語

その22 白昼夢

空の色が春の薄いブルーから濃いブルーに変わっている。熱気を帯びた太陽光が大地に降り注ぐのを待ちわびていたのだろう。草陰からは虫たちの様々な喜びの歌声で賑やかだ。(お腹はまあまあ一杯になったし、欲を言っても始まらない)チョット考えたが、僕は…

その21 友への祈り

木々の緑が色濃くなった6月末、ライバが産気付いた。僕とボンジュはいつも世話になっているライバの子供が生まれるのを今か今かと楽しみにしていたんだ。そこでお産の手助けをする旦那さんや奥さんの邪魔にならない様に見に行く事にした。0番地のある大きな…

その20 逃げてー!

夜になってもボンジュは戻らなかった。僕は心配でニャンキーハウスから出て厩舎や母屋付近を捜し回った。母屋の玄関横の小さな小さな池にカエルが住み着いて声を張り上げていた。「ゲロッ、ゲロッ、良い夜だー!」「ゲロロロー、星光ってるー」 ハッピーな鳴…

その19 我が家の仰天ニュース

花見が終わるのを待ちかねていたように桜が散って葉桜になった頃、風の便りにゴンタもキンコも結婚して子供が育っていると聞いた。僕とヨモブチは(キンコが子供の二、三匹も引き連れて0番地を襲撃して来たらどうしよう!) と頭を抱えいた。何か良い対策は…

その18 トムの旅立ち

待ちに待った本物の春が来て、母屋の庭の桜が21個咲いた。ここの桜ときたら僕が生まれる前から植わっているのに、今年もこれだけしか咲かない。昨年は12個で、その前は1個だったよ。きっと、余りの寒さに木が縮み上がって、ほんの少しずつしか伸びられない…

その17 霊界のアンテナ

母さんと別れた夜、僕は母さんの事が気になってまんじりともせずに一夜を明かした。もともと病弱な僕にとって、睡眠不足は身体の調子を狂わす。それは分かっていたが、年甲斐もなく、目が冴えて眠れなかったのだ。三匹の母親のトーマスは、そんな感傷に浸っ…

その16 サヨウナラ、ノン母さん 

一月が去り、二月も半ばになると一歩一歩と春が近づいて来るのが何だか分かる様になって来るんだ。日差しが強く、風のない日はそりゃー、ポカポカと暖かい。でも、いったん低気圧が来ると一変して、やっぱり冬なんだと思い知らされる。 その日は風が強く、ゾ…

その15 僕は酔っ払いなんかじゃないよ!

一月の半ばになると、ボンジュの身体はすっかり良くなってきた。それでも奥さんは無理やりチョッキう着せている。それを見つけると僕らは直ぐさま脱がしてやる。するとボンジュは大喜びで駆け出すんだ。その姿を見つけると、また奥さんはチョッキを着せる。…

その14 キジのいるチビタ伯父さんの土地

僕は間もなく家に戻っていた。看板の下は思いの外風が強く、短いシッポの為もろに肛門が風にさらされた。ビーンと脳天を突き抜ける程の痛覚に我慢出来ず、そそくさと帰って来たのだ。あのままいじけていたら、又痔が悪化するだけだからネ。留守の間に湯たん…

その13 僕は愚図なドラ猫

翌朝、弟と妹は早速チビタ伯父さんから譲り受けた土地を見に行った。トムとミイも行きたがったが「どんな危険があるか分からないのよ!今日は、ヨモ叔父ちゃんと二人で偵察して来るから待ってなさい!」 と、トーマスがしっかりと諭していた。まだ子離れの訓…

その12 僕たちのチビタ伯父さん

正月の三が日が過ぎて、ヨモブチとトーマスがソロソロ働きに出ようかと話し合っていた五日の昼過ぎ、外で遊んでいた子供たちが大急ぎで戻ってきた。「お母さん!知らない人が来るよ!」とトムが息を切らして言った。そのそばでミイも興奮している。「ミイに…

その11 稲荷神社にキツネがいた!

山越えは長い枯れ草と雪に覆われた林の中を進むのだから、多くの時間を有した。ユーミスの丘を越え、 下の町道を横切ってもう一つの山を下ると港町が見える崖っぷちに小さな広場があった。そこには数人の人間たちが階段を登って来ている。なるほど、犬や猫、…

その10 0番地の正月

子供たちは僕らの存在を感じ、熟睡している。何の夢を見ているのか、トムが「明日!」 と叫びながらムックリ身体を起こし、バタンと倒れてまた眠った。それを見て僕らは笑い転げた。「プッ!寝ぼけているんだ、こいつ!」 ヨモブチが指さした。「ホントに!…

その9 しめ飾りは、目刺しがいいナァ

今日は大晦日だ。旦那さんは、一人で午後二時頃に早々と馬達を厩舎に入れ始めた。母屋から良い匂いがしている。きっと奥さんは正月の料理を作っているんだ。旦那さんは仕事をしながら時々ニャンキーハウスの前を横切っているが、まだウサギには気づいていな…

その8 ボンジュの悲しみ

汗が収まった頃、家に入るとボンジュが湯たんぽの上にうずくまっていた。「ボンジュ!お土産あるよ!」 ミイが元気に声を掛けた。「ボン!早く食べてごらんよ!」 トムも笑顔を向けた。ボンジュは聞こえている筈なのに、ジッと下を向いたままだった。「ボン…

その7 ウサギの御馳走

ガラッ! Ⅾ型ハウスの戸を開ける音で僕たちは目が覚めた。今朝は旦那さんが馬の餌やりに来たことがすぐにわかった。奥さんだったらいつも大声で「ボンジュー、ボンジュー、お早う!」って必ず言うんだ。何も言わない時は旦那さんに決まっているのサ。 旦那さ…

その6 弟の帰宅 

この0番地付近には毎夜のように犬のゴンタとキツネのキンコがやって来る危険性があった。そのため僕らはオチオチ眠ってなどいられない。が、子供たちだけにはゆっくり眠らせてあげたくて、家にいる大人は注意を怠らない。こんな危険な目にあっているのを旦…

その5 妹が帰って来た

長い冬の夜が始まった。戸外は雪明りで、夏の夜とは比べ様もない程明るいが、ここⅮ型ハウス内の0番地は、闇の世界だ。ここに明かりが灯るのは、夜に旦那さんや奥さんが馬達に餌をつけに来るときだけだ。 楽しみにしていた餌を食む馬たちは騒々しい。吊るさ…

その4 ノン母さんの思い出

僕たちの母さんの名前はノン、弟一匹との二匹姉弟と聞く。叔父さん(母さんの弟)は僕たちが生まれる前に行方不明になったそうだ。 お祖母ちゃんの名前はニャンキロパー。奥さんが嫁に来る数年前に、ここの牧場に捨てられたと聞いている。ノン母さんが生まれ…

その3 もうすぐ、お正月だって!

湯たんぽがヒヤッとしてきたので目覚めると、どうやら夜が明けたようだ。間もなく「ボンジュ!ボンジュ!」 と奥さんの声がした。今朝は旦那さんじゃなくて奥さんが馬に餌をやりに来たようだ。ボンジュは奥さんのめんこだから、すぐに飛び出して行った。「ボ…

その2 大変な目にあったボンジュ

バターン! ドアを開ける音だ! 誰もがスクッと身を立てる。弾けるようにボンジュが駆け出して行った。 奥さんと旦那さんだ!僕らも後に続いた。 戸外へ出ると、ボンジュは雪が冷たいらしく、足をすくめながらも奥さん目がけて駆けていく。「アラー、ボンジ…

その1 マイ ファミリィ

ドラ猫横丁0番地は、ある牧場のカッター(乾草を切り刻む農業機械)の下をいう。そこには八十センチ四方のダンボール箱の僕たちの家、ニャンキーハウスがあるのだ。 僕の名前はブチニャン、来春で四歳になる。ブチニャンなんておかしな名前だが、ここの奥さ…