正月の三が日が過ぎて、
「お母さん!知らない人が来るよ!」
とトムが息を切らして言った。そのそばでミイも興奮している。
「ミイにネ、0番地は何処かねって聞いたの。だから、
その二人の話が終わらぬうちにボンジュが口を挟んだ。
「あのネ、
それを聞いて僕はピーンときた。
「チビタ叔父さんじゃないの?」
すかさずトーマスが言った。どうやら僕と同じ事を考えたらしい。
「チビタ伯父さん?」
ヨモブチはキョトンとしている。
「お袋が昔話していたろう?
僕がそう教えている間に足音が近付いて来た。
「ウッホン!私はチビタ伯父だが、皆いるかな?」
やっぱりそうだった。トーマスは、
「おめでとうございます。チビタ伯父さん!」
僕らは丁寧に頭を下げた。後から出て来たトーマスに従い、子供たちも次々に挨拶している。
「あー、おめでとう!一度も会った事がなかったが、
ゆっくりとした重々しい言葉が返ってきた。
「ハイ、母がよく話しておりました」
トーマスが答えた。
「そうか、
と言うと、伯父さんは辺りをグルリと見回し、
「今日はチョット話があって来たのだヨ。ウッホン!」
チビタ伯父さんは気を取り直し、声を張り上げた。
「まあ、このような所ではなんですから、どうぞ中へ」
トーマスは先に立って、いそいそとニャンキーハウスへ招いた。
「どうぞ、どうぞ」
子供たちは物珍しそうに僕らの様子を見ている。
「ヤアー、すまんのー。それじゃ少し休ませてもらうよ」
チビタ伯父さんは家の中に入ると今度はヒクヒクと鼻を動かし、室内を見回して
「良い子供たちじゃないか!」
チビタ伯父さんは感心して言った。
「ありがとうございます。サァ、どうぞどうぞ、
トーマスはとびっきり上等な言葉で言った。
「ヤアー、すまんすまん」
チビタ伯父さんは横にステッキを置くと両手を摺り合わせながら、
「オー、暖かーい!ここでは毎日湯タンポを入れて貰っているのかな?」
僕らが頷くとチビタ伯父さんは穏やかな顔になった。
「実は、
チビタ伯父さんはゆっくり一言一言嚙み締める様に言った。
「はぁー」
僕らは何と言って良いのか分からず、間の抜けた合づちを打っていた
「ここだけの話だが、私にはチョットした財産があってネ。牧場の土地と住宅を自由に使って良い権利を持っているんだよ。そこでネ、私にはこれといった身内もいないから、お前たちに全部譲って行こうと思ってやって来たんだよ。どうだい、
チビタ伯父さんは口を尖らせ、それぞれの顔を見つめて言った。僕らは余りの幸運な申し出に息もつけない程驚いて、お互いの顔を見合わせ
「本当ですか?」
ヨモブチが聞き返した。
「ああ、本当だとも。これで大家族のお前たちの生活も、
チビタ伯父さんは少々得意になって言った。
「どうもありがとうございます!」
僕とヨモブチの目は輝いて深々と頭を下げた。
「子供が三匹もおりますので、大助かりです。
トーマスも丁寧に礼を言い、頭を下げる。
「そうか、そうか。それではそういう事にしよう。じゃ、
チビタ伯父さんはステッキをついて立ち上がった。
サア、見送りだ。僕らは伯父さんの後にゾロゾロ続く。伯父さんは厩舎の裏手に回ると西に向かって進む。遠い空から雪がチララチララと降っていた。僕らは厩舎の裏で立ち止まる。北風がチビタ伯父さんの身体に吹き付け、毛がめくれている。
「伯父さーん!引っ越しは何時ですか?ー!」
トーマスが声を掛けるとチビタ伯父さんは首をすくめて振り返った
「明日の朝じゃよー。
と、立ち止まってステッキを振りかざした。
「サヨウーナラー!」
手を振る僕らに気付いて子供たちも駆けて来て、一緒に手を振っている
「達者でナ!」
チビタ伯父さんは更に高くステッキを振ると歩き出した。
伯父といっても僕たちより二つか三つ年上のノン母さんの子供と聞いている。
寒風にさらされ、僕らはしばらく立ち尽くしていた。
「
そう言っていた母さんの行き先は、ようとして分からない。
「皆で住めるのが一番の幸せかもしれないわネ」
トーマスはニャンキーハウスに戻りながら僕らに言った。
「そうサ!やっぱり0番地に住んでいるのが一番サ!」
ヨモブチが同調した。
「イマドキ皆で力を合わせて生きている猫なんて、
僕は答えながら(奥さんや旦那さんの力を借りているけどネ)と思っていた。
「明日は早速チビタ伯父さんの土地を見に行って来ようかしら?
トーマスの声が弾んだ。
「僕も行くよ!」
「ああ、よーく見て来ておくれ。だけど十分に気を付けてくれよ」
ヨモブチも楽しみにしているが、
「危ないから行ってはダメ!」
と言われ続けていた。故に今の今まで足を向けた事がなかった。
正月も奥さんのご飯を貰ったとはいえ、ウサギの肉は僕らをタップリと楽しませてくれた。今では歯が立たない太い骨の残骸だけになっている。そろそろヨモブチとトーマスが働きに出る時が来たのだ。
(もしかするとチビタ伯父さんの土地は、狩りには絶好の場所かも知れないゾ!)