ユーミスの丘

ドラ猫横丁0番地に住む猫たちの愉快な物語

その7 ウサギの御馳走

 ガラッ! 
 Ⅾ型ハウスの戸を開ける音で僕たちは目が覚めた。今朝は旦那さんが馬の餌やりに来たことがすぐにわかった。奥さんだったらいつも大声で
「ボンジュー、ボンジュー、お早う!」
って必ず言うんだ。何も言わない時は旦那さんに決まっているのサ。
 旦那さんは僕らのハウスを横切り、馬房に近付くと馬達には
「お早う!」
 と声をかけている。
 間もなくガサゴソと音がして来た。旦那さんはニャンキーハウスの隣の大きな囲いの中から切草を取り出して馬達の桶に配ると、塩、カルシウム、ビタミンをその上に振りかけている。僕は時々見ているから、音だけで全てが分かるんだ。馬と言うやつは実に変な物を食べる動物だよ。餌やりが終わると今度は水やり。その次はブラシがけサ。全てが終わりそうになった頃、ボンジュがゆっくりと立ち上がった。
「イヤになっちゃう~」
と、ぼやいている。小さなボンジュにはチョッキが重いのだ。顔をしかめながら身体を揺すり、自分の動きを確かめるとモコモコと出て行った。
 僕らは奥さんじゃないと出て行かない。旦那さんが餌をくれることなんて滅多にないからネ。
「ボンジュー、チョッキは暖かかったかい?」
 旦那さんの声が聞こえた。
 そう言われてみれば、ボンは昨日より少し元気になったようだ。でも、風呂は絶対にやめてほしいよ。もし身体がこれ以上悪くなったら、それは風呂のせいだ。

 ソロソロ起きようか。僕はニャンキーハウスから少し顔を出してノビをした。冷たい空気がピリッと肌を刺す。スゴーイ寒さだ。これじゃ山のウサギもコチコチに凍ってしまっているだろうなぁ。
「寒ーい!ニイ、山へはもう少し暖かくなってから行こうヨ!」
 トーマスが後ろから覗いて言った。
「山って?どうして山に行くの?」
 ミイがトーマスにピッタリくっつきながら尋ねた。
「山にねぇ、お前たちの為に良い物見つけてあるんだよ」
 トーマスは愛し気にミイの顔を舐めながら答えている。その後ろからトムが身体を摺り寄せ疑問をぶつけた。
「お母さん!それってなーに?」
「お前たちはまだ見たことも食べたこともない、ヨモ叔父ちゃんより大きなウサギが獲れたんだよ!」
「エェッ!ホント、ホント!?早く連れて行って!」
 ミイとトムは飛び跳ねて喜んでいる。ニャンキーハウスの奥からヨモブチがノッソリと起きて来て、こう言った
「ボンはどうする?」
「可哀想だけど、置いていくしかないネ。身体が弱いし小さいから、雪の中を行くのは、死にに行く様なものよ」
 トーマスはハウスから身を乗り出し、ボンジュの姿を探しながら言った。ボンジュは馬房の前で嬉しそうに旦那さんに抱っこしてもらっている。
「トムもミイも、この事はボンジュには黙っていなさいよ!」
 トーマスは声をひそめ、きつい調子で言い聞かせた。
「それならボンが可哀想だから、ミイ行かない」
 ミイは顔を曇らせ、ポツリと言った。
「大丈夫だよ!ボンだけ奥さんからまた美味しい物もらうんだから!」
 ヨモブチが慌てて言い聞かせる。すぐさまトーマスも口を挟んだ。
「そうヨ!ボンは奥さんのめんこじゃないの!だから置いてっていいんだヨ!」
「そうだよ!ボンはいっつも自分だけ美味しい物いっぱい食べてるじゃないか!僕たちに分けてくれないで!だから置いてったっていいんだよ!」
 トムがムキになって言った。
「そうよ!ボンは、いつでも特別に美味しい物食べているでしょ!
 トーマスは語気を強め、険しい顔で言い含めた。ミイ以外の誰の心にもボンだけが良い思いをしている事へのやっかみが渦巻いていたのだった。
「分かった。そしたらミイ、ボンにお土産もって来てあげるよ!」
 ミイは、皆の顔をグルリと見回した。どこまでも優しい娘だ。
「ヨシ、決まった!行く事は皆、黙っていろよ!後を追って来たらあいつは本当に重い病気になって死ぬかもしれないからナ!」
 誰もがヨモブチの意見に同意して大きく頷いた。
 丁度良かった。午前9時になると、奥さんがボンジュを連れて買い物に出かけたんだ。ボンは何も知らず、おかしなチョッキを着せられたまま顔を拭かれ、車に乗せられて行った。あの調子なら捨てたりはしないだろうと、僕は心配するのをやめた。

 冬の低い太陽が姿を現してから2時間程たっただろうか。待ちに待った時がやって来た。
「サー、出発!」
 ヨモブチの声に皆が並んで歩き出した。先頭はトーマスだ。いつもはヨモブチが先頭なのだが、今日は妹が案内してくれなければ行き先が分からないからネ。トーマスの次はヨモブチ、その後ろにトム、ミイ、僕の順に並んで行った。雪も深いし、いつキンコとゴンタが襲ってくるかもしれない。僕らは丸太で組まれた牧柵によじ登って歩いた。 
 牧柵は地面から一メートル二十センチ程の高さがある。もしもの時でもどうにか命は助かるだろう。トーマスは母親だから一番警戒している。
「トム!ミイ!落ちないようにネ。気を付けて歩きなさいヨ!」
 そう言いながら時折り振り返って子供たちの様子を見ている。耳はピーンと立っていた。

 百メートルも進んだだろうか、放牧されていた馬のライバが物珍しそうに近づいて来た。「ヒヒーン、皆で家出するのかい?」
 腫れぼったい目をこちらに向けた。他の四頭の馬たちも興味ありげに近づいて来て「とうとういられなくなって家出だな!オッホホホホ」
 と笑い出した。
 トーマスは癇に障ったらしく、怒って言い返した。
「家出なんかするわけないでしょ!」
 すると、この牧場で一番の稼ぎ頭であるキクイチオオー婆ちゃんが
「家出しなくても良いが、近頃の猫はろくでなしばかりだ、って旦那さんも奥さんもこぼしていたから、気をつけた方がいいよ!」
 と嫌みたらしく口をひん曲げ、真っ白な鼻息をふきかけてくる。
「それはどういう事だ!」
 ヨモブチが憤慨して足を止めた。
「分かってないネー。捨てられない様に頑張ったら、と言う事よ!
 キクイチオオー婆ちゃんは、またもやどぎつい事を言った。ライバ以外の馬たちも
(そうだ!そうだ!)
 と首を振って笑っている。
 僕はそれを聞いてゾッとした。二人が本気で捨てるとしたら、僕だ!と思ったからだ。こんな話はいつもの冗談だと思ってはみたものの、馬たちにまでこぼしているとなると本気かも知れない。特に物知りのキクイチオオー婆ちゃんの言うことには、やすやすと聞き流せないものがある。
 立ち止まっていると、身が切られる様な寒さに身体が竦む。僕はその寒さとキクイチオー婆ちゃんの言葉に気が沈み、冷気で鼻までグシュグシュして来た。妹と弟はちっとも気にしていない様子だ。子供たちときたらこの寒さなんてどうってことも無いらしい。馬達との言い合いすらそっちのけで、まるでピクニックにでも行くつもりのようだ。子供は本当に風の子だね。
「トム兄ちゃん、早くウサギ見たいね」
「うん、どのくらいの大きさかな?」
 楽しい夢でも語り合っているように二匹はハシャイでいる。
 トーマスは馬たちを無視して歩き出した。僕らも続く。

「トーマス、まだまだかい?」
 僕は息を切らしながら声を掛けた。
「もうすぐヨ!」
 妹はそう答えながらも、どんどんユーミスの丘の方へ足を進めている。もう0番地から五百メートルは歩いただろうか。妹が立ち止まって振り返った。
「皆、ここから丘に上るのよ!」
 牧柵はここで終わりだ。丘には多くの白樺が立ち並び、木の下はススキが枯れて密生しいる。その根元には雪が刺さり込み、十センチばかりの積雪になっていた。
 僕たちは妹に続いて牧柵を下りるとススキを搔き分け、またもや一列に並んで進んだ。雪に足を取られ冷たいが、僕はがむしゃらだった。

 二十メートルも進んだだろうか。こんもりとした雪の塊に出くわした。これだ!僕は思わずワァーッと歓声を上げそうになって、慌てて口を押さえた。みっともないじゃないか!家長としてね。
「これよ!これ!」
 トーマスが指す雪の塊の周りには、一メートル程の高さに丸く木の囲いがしてあり、その囲いの中は丁度僕らが全員入れるくらいだった。よく見ると様々な木々の枝を地面に突き刺した囲いだ。そこに入り口らしきものが一つあった。針金の輪が二本あり、一本は潰れてヒラヒラと上に折れ曲がっている。もう一本はピンと張って下に垂れ、雪に埋もれていた。囲いの中心に凍ったニンジンの食べかけが棒に刺さっている。僕らは折れ曲がった針金の下をくぐって中に入った。
「ここが頭よ!」
 トーマスが力強くニンジンの下を前足を使って掘り始めた。勝手が分からず僕らはやや遠巻きに見守っていると
「何しているの?早く手伝って!」
 トーマスの言葉に促され、僕らも掘り始めた。見る見るうちに白いウサギが姿を現した。「ニヤッホー!トーマス、よく見つけたなあー!」
 ヨモブチが感激してジャンプした。吐く息までが白く踊っている。
「どう?お正月にピッタリの御馳走でしょう!」
 トーマスはスクッと立って皆を見回した。威張っているんだ。
「ホント、お母さんってすごいや!」
 トムはウサギにつんのめりそうになって叫んだ。
ミイはひたすら「すごーい!
 と叫んでいる。
「トーマス、よくやったなあ!」
 僕は只々称賛した。しばらくの間、雪の中から掘り出され硬直したウサギをまじまじと見ていた。ウサギの首に針金の輪が食い込み、その輪は横棒にしっかりと固定されていた。ニンジンに魅せられ罠に掛かったウサギは、逃げようと前に前に進んだに違いない。バックさえすれば逃げられたかも知れないのに不運な奴だ。今となっては僕らの食料の一つに過ぎないのだ。

 皆の目がギラギラとウサギに注がれ、今か今かとトーマスの号令を待っている。これを見つけたのはトーマスだから、所有権は彼女にある。親子であろうが兄弟であろうが所有者が「食べてよし」と言うまで食べる訳にはいかない。これが我が家の掟だ。
 針金に頭が吊るされ横たわったウサギをジッと見ていたトーマスは、大きく肩で息を吸い込むと
「ブチニイは一家の主だから頭を食べてね。トムとミイは子供だから一番食べやすいお腹を。後は好きなようにして!サァ、食べましょう!」
 トーマスの掛け声に、皆一斉にそれぞれの場所で食べ始めた。僕は言われた頭の部分を前に、たじろいでいた。歯や鼻の悪い僕にとって頭と言うのは最も苦手な場所だったからだ。耳をかじってみたが、毛が邪魔してチッとも美味しいと思わない。柔らかいところと言えば鼻の先とほっぺと目玉だけだ。見回すと誰もが苦戦していた。ウサギの肉は全て凍っていた。それでもトーマスが雪を掛けておいてくれたので、ガチガチではなかった。

 僕以外は皆、全力で挑んでいる。十分もすると少しずつだが肉にありついたらしく、ペチャペチャ舐めたり食らいついている子供たちの姿があった。勢いよく腿に食いついてムシャムシャ食べているのはヨモブチとトーマスだ。僕もようやく目玉をくり抜くのに成功した。凍っていてブシュッと弾ける手ごたえはなく、シャーベットでも食べているようだったが、喉の奥にじんわり広がっていく味に
「うーん!うまい!」
 と思わず声を漏らしていた。こんな御馳走は何年ぶりだろうか?
「ニイ!美味しいでしょ!」
 トーマスが笑って言った。大きくうなずく僕の前で
「おお!たまんねぇ!」
 ヨモブチが舌なめずりをし、また食らいついた。トムとミイも
「うーん、うまい!本当に美味しいよ、お母さん!」と、感激しながら夢中になって食べている。
 僕は二つ目の目玉をやっと食べ終え、皆が食べている様子を見ていると
「ブチニイ、早く食べろよ!」
 とヨモブチが場所を譲ってくれた。
ありがとう」
 と言いかけたところで猛烈なクシャミが襲ってきた。
「ブチニイは、それだから元気になれないのよ!」
 トーマスは肉を頬張りながら横目で気の毒そうに僕を見ている。
 本当にそうだと思う。僕は大食いにも慣れていないのだ。その上、この寒さの中では鼻が詰まり、クシャミの嵐に気持ちが悪い。
 休んで見ていると、皆の肉への執着が伝わって来る。その中でもトーマスの食べっぷりは群を抜いていた。丈夫な奴だ!僕もまた食べる事にした。今度は股に食いついた。ムッチリとした肉の塊が何とも言えない美味しさだ。しばし肉体の苦痛を忘れた。皆が満足するまでたっぷり一時間はかかったろう。

 食べ終わるとウサギの周りで一休みだ。口の回りについた美味しい血をそれぞれがペロペロ舐め始めた。前足で顔を擦ったり、全身の毛を舐めたりした。この一時は、何とも言えない満ち足りた時間だ。僕の腹も久々にパンパンに膨れた。
「うーん、食ったな!」
 クシャミを矢継ぎ早にしながらも満足だった。
「ニイ!この残り、どうする?」
 フーフーと息をし、突き出た腹をクリクリとなでながらヨモブチが問いかけてきた。「ボンジュに持っていってやろうよ!」
 すかさずミイが叫んだ。
「そうだよ!ボンジュに持って行ってやろう!」
 トムが僕ら大人の顔を見回して言った。子供たちはボンジュを置いてきたことが気になって仕方がないらしい。
「そうネエ、でも随分重そうよ」
 とトーマスが考え込んだ。あんなに食べたのに、まだ半分も残っている。ヨモブチが決心したように胸をポーンと叩いて言った。
「ヨーシ!皆で引っ張って行こう!」
「そうね、ゴン太やキンコにやる事ないネ!」
 トーマスも決心したようだ。
「ワーイ!」
 トムとミイは大喜びで飛び跳ねた。体力に自信がない僕はジッと事の成り行きを見守っていた。すぐにトーマスが後ろ足を引っ張り始めると、トムとミイも手伝った。針金にしっかりとくくられたウサギの首が邪魔して動かない。
「よし、首を取っちゃおう」
 ヨモブチがバリバリと首を食いちぎり始めた。僕はその間、雪を踏み固めて道をつける事にした。これを持って行ったらボンジュ、ビックリするだろうなあ。
「やったぞ!」
 大きなヨモブチの声に振り返ると、ウサギの頭がポロッと雪の上に転がっていた。頭はそのまま放置し、皆で残りの個体を引っ張り、ユーミスの丘を下った。ウサギの内蔵と股の部分が皆の腹に収まったとはいえ、まだまだ肉は重い。僕らの満腹の肉体にとってこの作業は思ったよりきつかったが
ゴン太やキンコに食わせるくらいなら、可愛いボンジュに食べさせたい!)
と、皆の心は一つになっていた。

 ユーミスの丘を下り、なだらかな斜面の放牧地に入ると一休みだ。あまりの重さに皆の喉もゼイゼイいっている。風は止んでいたがお日様が少し傾いていた。もう昼過ぎになった様だ。
「ウンコラ、ドッコイ!ウンコラ、ドッコイ!」
 皆でへとへとになりながら放牧場の中へと進むと
「何だい?そのいやらしいものは?」
 早速キクイチオオー婆ちゃんが顔をしかめて近づいて来た。他の馬たちも駆け寄って来たものの
「その臭い物は何だー!!」
 そう叫ぶと、遠くへ逃げ出して行った。
「ウサギの肉サ!」
 僕らは立ち止まった。子供たちはハアハアと息を荒げながら
「お母さんが見つけたんだよ!」
 と得意げだ。トーマスとヨモブチは”どうだ!”と言わんばかりに胸を張っている。「イヤダネー、猫は。野蛮で下品で!オエッ」
 キクイチオオー婆ちゃんは嘔吐でもしそうに舌をだらりと出した。
「何よ!人間よりずーっとマシよ!」
 またもやトーマスは不愉快丸出しで言い返した。
「トーマス、放っておけ!」
 ヨモブチが忠告している。こんな所で時間を取りたくないのだ。いつ邪魔者が現れるか知れない。遠くへ逃げていたライバが他の四頭とおずおず近づいて来て
「どうでもいいから、早く持って行ってよ!」
と鼻孔を歪め、促した。

 そうこうしていると、にわかに頭上が騒がしくなり、邪魔者が姿を現した。
「カー!うまそうじゃないか。食わせろ!食わせろ!」
 カラスどもが二十羽近くも集まってきたのだ。その騒々しさに僕らの全身の毛が瞬時に逆立った。
 お互い目をギラギラさせ、口を一文字に結び、あいつらに指一本触らせるものか!とウサギを引っ張った。
「もし、このウサギに触ったら必ず殺してやる!」
 トーマスが声をひそめて言った。
「あぁ!必ず殺す!」
 ヨモブチも物騒な事を言っている。
「カラスなんかに絶対にやるもんか!」
 トムとミイも顔を真っ赤にしてウサギを引っ張っている。カラスどもは頭上に円を描きながら飛び交い、僕らの後をついてきた。まるでウサギに届きそうなほど低く飛んで来る。くちばしをカチカチ鳴らしながら次々と僕らの身体に襲いかかっても来る。僕らは頭を低めたり地面に張り付いたりと、攻撃から身を守るのに必死だった。
「オーイ、シッポ無しのへんてこ猫!」
「能無し猫の集まり!」
「ブス!トンマ!アホンダラ!」
 カラスは肉にありつけない悔しさで悪口雑言を浴びせてくる。僕は”シッポ無し”と聞いて、すぐに自分の事だとピーンときた。そんなことはとうに卒業した僕はいいが、姪のミイには、僕の味わった情けない思いをさせたくない。そう思ってミイを見ると、少しも気にしていない。ミイのシッポは僕より長いが、皆の半分しかなくて、ぐにゃぐにゃに曲がっているのだ。我が家では、シッポの話はタブーとされているので、気がつかないのだろうが、可哀想に、嫁に行く頃にはきっと悩むだろうナァ。
「シッポなし!シッポなし!」
 大声ではやしたてて付きまとうカラスを、ライバが追い払いに走って来てくれた。ライバには昨年生まれた娘がいて、その娘のミーシャは生まれて一ヶ月もの間、自力で立つ事も横になる事も出来ずにいた。その時周りの馬たちから
「未熟児!、未熟児!」
 と随分バカにされていたのを僕が心底慰めてやったものだ。
「バカどもめ!あっちへ行け!」
 ライバと一緒にミーシャも走り回ってカラスを追い払ってくれた。
「ありがとう、ライバ」
 僕らは感謝の気持ちで一杯だった。
「イヤイヤ、気にしなくて良いよ。それより早く持って行きなよ」
 と、さらに後ろをトコトコついて来てくれた。遠くへ追いやられたカラスどもは、悔し紛れにゴチャゴチャと悪口を続けている。

 かれこれ一時間は掛かっただろう。僕らはやっと家にたどり着いた。皆クタクタになって、しばらくはその場から動けない。僕らの息切れはしばらく続いた。