ユーミスの丘

ドラ猫横丁0番地に住む猫たちの愉快な物語

その3 もうすぐ、お正月だって!

 湯たんぽがヒヤッとしてきたので目覚めると、どうやら夜が明けたようだ。
 間もなく
「ボンジュ!ボンジュ!」
 と奥さんの声がした。今朝は旦那さんじゃなくて奥さんが馬に餌をやりに来たらしい。ボンジュは奥さんのめんこだから、すぐに飛び出して行った。
「ボンジュ、肉持って来たよ」
 その声と匂いに僕らも一斉に出て行くと、ボンジュが一人でムシャムシャと肉を食べている。
 僕たちが近づくと
「ダメッ!ボンジュだけ!」
 屈み込んでボンジュを見守っていた奥さんが怖い顔をして睨んできた。ボンジュは僕らに目もくれず肉をほお張っている。僕の口の中にジトーッと唾が出てきた。弟やトム、ミイの口元からもよだれがダラダラこぼれている。
「ニャン、ニャン、肉を下さい」
 僕はいつものように控えめに言った。すると
「ボンジュは栄養が足りないの!」
 と奥さんがまた睨みつけてきた。僕だって昨年の冬はボンジュに似た状態だったし、痔にもなって苦しんだのに、チッとも親切にしてくれなかったじゃないか!気まぐれといおうか、えこひいきといおうか、イヤラシイよ!ホントに!
 僕がトムとミイの気持ちを思ってムッとしていると、ヨモブチが
「ニイ!俺、仕事に行って来るよ!」
 とプンプンして出掛けて行った。その踏ん張った足取りは怒りそのものだった。隣の家のニワトリを狙いに行ったんだろうが、どうせ失敗して帰って来るに決まってる。
 ボンジュは食べ終わると、いつも通りに奥さんの防寒着の懐にスッポリ入れてもらって嬉しそうだ。トムとミイは、僕の側で腹がすいたと鳴いている。僕には、どうしてやることもできない。
「今に奥さんが、きっと持って来てくれるよ」
 と言ってやるしかなかった。


 こんなとき、僕は家長として情けない気持ちになるのだ。
 二、三年前、旦那さんと奥さんが札幌から買って来たウサギが病気になり、それが僕とヨモブチとサリーに移ってしまった。それでサリーは高熱を出して、死んだのだ。
 ヨモブチは自力で全快したが、僕はあれ以来、年中風邪を引きっぱなしだ。その上、ここの家のご飯では栄養が取れず、すっかり臭覚をやられちまった。大切なヒゲは折れて無くなるし、身体のバランスを取るシッポもこう短くては獲物の一つも捕ることが出来ないのだ。病弱な僕にとって冬は特に体調が悪い。
 今年は湯たんぽがあるから随分と楽だが、弟や妹には肩身の狭い思いをしている。今の僕は毎日留守番をして、妹の子供たちの面倒を見てやったり、夏になるとトンボやコオロギなどを捕って過ごしているのだ。 
 情けないけど、ネズミや鳥などは到底捕れるはずがないのだ。

 馬の餌をやり終えた奥さんがボンジュを下へ降ろし、僕らのニャンキーハウスの前を横切った。情けない顔をしている僕らに
「待ってなさい!今持ってきてあげるからネ」
 そう声をかけてくれた。良かった!皆で勝手口まで駆けて行くと、間もなくボウルに何やら入れて出て来た。
「ワァー!魚が入っているヨ!」
 奥さんにピッタリくっついているボンジュが教えてくれた。奥さんは
「みんな!もうすぐお正月なのよ、分かる!?」
 と僕らのハウス前の器に、ご飯と魚のミックスを入れてくれた。
 ヨモブチの奴、馬鹿だナァ、と思いながら、子供たちと美味しい朝食を取った。

 今日は十二月三十日。昨日の新聞に二十九日と書いてあったからネ。奥さんに言われるまでもなく知っていた。ここの家では、新聞を郵便屋さんから受け取って中に持って行くまでのチョットの間、厩舎の廊下に置いておくんだ。その時に読むのサ。
 僕は、猫並みに仕事が出来ないから、せめて人間の言葉と簡単な文字だけでも分かるようになりたいと思っているんだ。だから、奥さんの言っている事はほとんど分かるようになったヨ。勉強したからネ。時々みんなに聞かれる時があるけど、その時だけは僕も役に立ってるって思えて嬉しいよ。

 奥さんが湯たんぽを新しく入れ替えてくれた。皆で暖かい湯たんぽにくっついていると、様々な思い出が浮かんでくる。